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×マリーさんと姫様の囮

2009-04-05 21:07

WOT2nd、シリンさんが囮で浚われたあたり。
マリーさんとレド君の会話。



マリーさんと姫様の囮



最近身分の高いお嬢様方を誘拐する事件が起こっているのは知っています。
その犯人が分からず、被害者だけが増え続けている事も。
私、姫様だけは、姫様だけは、以前のイディスセラ族に浚われた時のような事がないようにお守りする気満々だったのです。
私がどうなろうと、姫様だけは必ず守ると思っていたのです!
ですが、ですが…っ!

「提案した陛下を罵倒やりたいーー!!」
「…それ、不敬罪だぞ」

ここは城下町の簡易お食事処。
ざわざわと賑やかなので、私が叫んだ所でそれを咎めるような人はいないのです。
じとっと私を見るのは幼なじみのレド。
レドにしか文句を言えない私は寂しい人なのかしら?

「んで、その姫様は囮になったんだろ?」
「…そうよ、昨夜浚われちゃったわよ」
「んなスネるなって。大体、フィリアリナ将軍も当の本人もちゃんと解って引き受けたんだろ?」
「それは分かっているのだけれども…」

姫様は解決する見込みがなかなか見えない誘拐事件の囮になる事を、エルグ陛下直々に頼まれたのです。
一度使った囮は失敗、丁度良い年ごろの姫様に白羽の矢が立ってしまったのです。
建国祭の準備もあり、お屋敷の警備が手薄になっても不思議ではないこの時期、姫様を浚う事はさぞかし簡単だったでしょうね、誘拐犯のヤツらはっ!
腹立たしいです!

「あの姫様なら、マリーが心配しなくても大丈夫だと思うぞ?」
「そんな事はないわ!姫様は姫様は……可愛らしすぎるのよ!」

ぐっと拳を握り締める。
姫様が誘拐犯ごときにどうこうされるなど、私も思っていません。
私の姫様はとてもとても優秀ですから、下手な行動はされないと信じています。
けれど、けれど、姫様は可愛らしすぎるのです!

「姫様、とてもお優しいから、誘拐犯の境遇にまかり間違って同情してしまわれて、誘拐犯と仲良くしつつ、その誘拐犯はお優しい姫様に思わず想いを寄せてしまうなんて事もないとは言い切れないのよ!」
「いや、そりゃないだろ…」
「レドは姫様の可愛らしさと優しさを真に理解していないから、そんな事軽いが言えるのよ!」
「でも、犯人がさ……」

私は思わずぴたりっと動きを止めてしまいました。
しまったというような表情をレドが浮かべる。
さっきのレドの言葉は、まるで誘拐犯が誰であるかを知っているかのような口ぶり。

「レ~ド~~?」
「睨むな、睨むな!機密事項だから言えないんだよ!」
「それって犯人知ってるって事?」
「まぁ、一応な…」

誘拐犯が誰であるか、私のような身分では情報が入ってきません。
けれど、いつもならば噂の1つや2つあるのですが、今回は情報規制でもされているかのようにパッタリと情報がないのです。

「ご令嬢の救出部隊に入るように陛下に命じられてるんだよ」

ぽそっと呟かれたレドの声は小さかったですが、私にはばっちり聞こえました。
レドはこれでもかなり優秀な軍人です。
特殊な能力もありますし、陛下の評価は高いはずです。
そのレドが誘拐犯の為に動く…という事は。

「レ、レド…、誘拐犯ってそんなに危険な相手なの?」
「俺の心配してくれてんの?」
「姫様の心配に決まってるでしょう?!」
「……即答かよ。ちょっとくらい心配してるって言って欲しかったぞ」

レドは軍人だからいいのよ!
そんなことより姫様、姫様がそんな危険かもしれない人達の誘拐されたなんて…!
もし、もし、囮だって事がばれたら姫様は…っ!!

「んな顔色悪くする程心配する必要ないと思うぞ」

ぽんっとレドが私の頭に手を置いてくる。
くしゃりっと頭をかき交ぜるように撫でられるが、それが何故かほっとする。

「陛下が、何かあってもシリン姫がいるから、逃げることくらいはできるだろうって言ってたしな」
「え?」

レドの言葉に私は驚く。
当たり前です、だって、姫様がいるから逃げることができるだなんて、どうして陛下がそんな事を言えるのでしょうか。
姫様は賢いですし、可愛らしいですし、法術だって何時の間にかちゃちゃっと使えたりするのですが、何の訓練も受けていない、学院にも通っていない普通の姫様なんです。

「まさか…っ!姫様の可愛らしさで誘拐犯をノックダウン?!」
「何故そうなる?!」

レドに即座に突っ込まれてしまいました。
半分冗談です。
勿論半分は本気ですけどね。

「まぁ、陛下が何を知っていてそんな事を言ったのか分からないが…、おそらく犯人側は騒動を起こすのを好まないはずだ」
「大きな事件になれば、勝手に向こうが引いてくれる事?」
「多分な。ドンパチやってりゃ、向こうが勝手に引いてくれる……事を願いたい」
「確証があるわけじゃないのね」
「仕方ないだろ?相手は俺にとって初めての相手で……これでも結構怖かったりするんだぞ?」

軍人が戦いに赴くのは仕方ない事で、レドがこうやって緊張する様子を見せたのは、初めての仕事とその後数回程だけでした。
怖いと口に出すのを聞くのも、久しぶりな気がします。
私はレドの手をぎゅっと握る。
姫様を救う事は私には出来ない。
姫様が無事に戻ってきてくれることを願うだけです。

「レド、無理はしないでね」

姫様の無事はすごく大切だけれども、この幼なじみが無事である事も大切なこと。
私は、祈り願うだけしかできません。
エルグ陛下が何を思っていらっしゃるのか、考えていらっしゃるのか分からないのですが、陛下がそうおっしゃるのならば大丈夫なのだと信じます。
だって、陛下は姫様をお気に召しているはずですから、むざむざと姫様を浚わせておくままでいるはずがないのです!

結局何がどうなったのか分からないのですが、姫様は無事に戻ってこられました。
すごくすごく良かったとホッとしました。
でも、姫様…、被害者のご令嬢を口説かれたのですか?
姫様ファンクラブなるものを作られたという噂を聞いたのですが…。



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