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×マリーさんと浚われた姫様
今回は比較的コミカルな小話が多いマリーさんシリーズの中では、とってもシリアス。
マリーさんメニュー沈んでしまったので、浮上の為に1つ上げておきます。
マリーさんメニュー沈んでしまったので、浮上の為に1つ上げておきます。
マリーさんと浚われた姫様
今お屋敷の中はものすごく空気が重い。
何故かと言いますと、このフィリアリナ家の華とも言えるあの可愛らしい姫様がいらっしゃらないのです。
姫様がお出かけしているわけではありません。
姫様がお出かけしているだけでしたら、こんなに沈んだ空気にはなりません。
私の可愛らしい姫様は…脱獄したイディスセラ族に浚われてしまったのです。
私の姫様はお屋敷を明るくしていた存在であったことが、こうなってみて良く分かります。
浚われたという事もあるのでしょうが、姫様がいないだけでこんなにもお屋敷は暗いのです。
旦那さまとセルド様は姫様を取り戻すためにでしょう、お屋敷にはあれから戻ってきていません。
奥さまは姫様が浚われた事もあって戦争への参加が一時的に無効となったようなので、お屋敷の中にいらっしゃいます。
私は、そんな奥さまの前で頭を下げました。
「奥さま、本当に申し訳…」
「頭を下げなくていいのよ、マリー」
私は優しい表情の奥さまをゆっくりと見上げました。
奥さまは怒っていないように思います。
でも、姫様がお庭にいらしたとき、一番近くにいたのは私で、私が姫様をきちんと避難させていたら姫様だって浚われることもなかったかもしれないのです。
「少し、軍の方では大変なことになっているけれど、大丈夫よ」
「で、でも、奥さま…!」
私は何もできなかったので、後悔でいっぱいなのです。
今回の戦争で、旦那さまと奥さま、セルド様がお屋敷から離れるということで、お屋敷にいる姫様の事を、私たちここに仕える者達は頼まれていたというのに、姫様を守ることなど全くできなかったから。
「マリーがそんな顔で泣いてばかりいたら、シリンが帰ってきた時にすごく心配してしまうわ」
「おく、さま…」
そう、私はぼろぼろこぼれる涙を止められないのです。
可愛らしい可愛いらしい私の姫様。
幼い頃からずっとお傍で世話をさせていただいていて、姫様はいつだって私たち屋敷に仕える者にとても優しくして下さっていた。
お屋敷から抜け出して心配かける事もあったのですが、姫様は私たちの仕事を邪魔するような真似は一度だってされなかったのです。
「奥さま、姫様はっ…何も、何も悪くないのに、どうして…っ!」
「大丈夫よ、マリー」
「でも、でも、ひめさま…、全然動けないまま浚われて…!」
「マリー…」
「私、何も…っ!」
「マリーのせいじゃないわ」
奥さまはとても落ち着いていらっしゃる。
優しく私に声をかけて下さるんです。
「ねぇ、マリー。私は不思議と、グレンとセルド程シリンを心配してないの」
「おくさま?」
「こういう時男って駄目よね。何でも間でも心配ばかりが先に立って、軍の出立を急がせるようなことしかしないんですもの。信じる事も大事だと思うのだけれども」
シュリへ進行する軍の出立が早まるという噂は聞きました。
何やらクルス殿下が強制的にそう命令をだしたようなのです。
陛下もクルス殿下の命令に何も言わず許可したそうですし。
「マリーの知るシリンはそんなに頼りないかしら?浚われた所で、下手な行動をする子かしら?」
「そ、そんなことはありません!姫様は周囲の評価と正反対と思えるほどに、とてもお優しくてとても優秀です!」
「でしょう?」
嬉しそうな笑みを浮かべる奥さま。
奥さまは姫様大好きなのです。
それはお屋敷の人たち皆が知っている事で、私も奥さまがどれだけ姫様を愛しているかを知っているいます。
「だから大丈夫なのよ、マリー。シリンが帰ってくるまで大人しく待ちましょう」
「奥さま…」
「意外とシリンはあちらと仲良くしているのかしれないわよ」
私は奥さまの言葉に思わずぴたりっと動きを止めてしまいました。
なんとなく、そうしかねない感じがしてしまったのです。
姫様なら、あちらの同じ年くらいの子どもとちゃっかり仲良くしてしまいそうな気がします。
何と言いますか、姫様って案外無防備なんですよね。
姫様のような可愛らしい子に好意を向けられたら、残虐非道で冷酷なイディスセラ族の子だってうっかりすっかり姫様になついてしまう気がするんです。
姫様、懐かれても持って帰ってこないでくださいね…。
「仲良くなりすぎて、あちらの子を持ちかえってきたらどうしようかしら?」
「お、奥さま?!!」
「シリンならそれがあり得てしまうと思わない?」
お、思いますけど、思いますけど…っ!
奥さまや旦那さまと違って、私たちはやっぱりイディスセラ族が怖いんですよ?!
姫様が浚われた時だって、情けない事に姿を見ただけで怖くてその場から動けなくなってしまったんですから…!
全然自慢じゃありませんけどね。
「待ちましょう、マリー」
そうです、私は姫様専任のメイドなのです。
私こそが姫様を信じて待たなくてはいけないのです!
「はい、奥さま」
姫様はきっと帰ってきます。
ですから、私たちは姫様を笑顔で迎える事ができるようでなければならないのです。
けれど、思います。
二度と、二度と…姫様がこんな誰かに浚われるような事は起こしてならないと。
今度このような事がありましたら、私マリー・ディークレアの全てを賭けて姫様をお守りしますからね!
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