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×マリーさんとエルグ陛下
マリーさんとエルグ陛下
どこか最近までフィリアリナのお屋敷ではピリピリとした空気でした。
それはティッシとシュリの間で戦争が起こるだろうということで、旦那さまと奥さま、そしてセルド様までがそれに参加するからだったのです。
ですが、その戦争は本格化する前になくなり、イディスセラ族に浚われていた姫様も無事に戻ってきました。
姫様はいつものように、のんびりと読書をしているはずです。
「マ、マリー!!」
私もいつものように屋敷の掃除などの仕事をしていると、同僚に名前を呼ばれました。
「どうしたの?」
「ど、どうしたもこうしたも!シリン姫様は…?」
「姫様?姫様なら、きっといつも…の…」
同僚の後ろからゆっくりとこちらに歩いてくる人物を目に留め、私は思わずぴしりっと固まってしまいます。
えええ?!!ちょ、ちょっと待って下さい!
どうして、あの方がこんなところにいらっしゃるんですか?!
いえ、この屋敷にあの方が来られることは決しておかしい事でも場違いでもありませんが、今は旦那さまも奥さまもいらっしゃいません。
「こんにちは。シリン・フィリアリナ姫はいるかな?」
にこりっと笑みを浮かべたその方は、このティッシ国でその名を知らない人は赤ん坊くらいだろうというくらい有名な方。
生憎と顔立ちは知られていないものの、フィリアリナ家に仕えている人たちの半数は貴族出身なので顔を知っている人が多いのです。
幸か不幸か、私もその方の御顔を正式な場で拝見した事があるのです。
「国王陛下…ど、どうされたのですか?」
ありえません!
国王陛下がこんな真昼間にこのお屋敷にいらっしゃるなんて…っ!
少なくとも私がこのお屋敷に来てからは、国王陛下がいらっしゃったことは一度もありませんでした!
…弟君のクルス殿下は数回ほどいらっしゃったのを見かけましたけど。
「ようやくシュリとの事が区切りがつきそうでね、暇を作ったんだ」
気軽に私のような者に話しかけてくれる陛下ですが、どう答えたらいいのか私には分かりませんっ!
同僚はわたわたしながら、どこかへと逃げて…ああ、私を置いていかないで下さいっ!
「君はシリン姫付きだね、マリー・ディークレア嬢」
ど、どうして国王陛下が私の事を御存じなのですか?!
「シリン姫の周囲にいる子は、ちょっと調べさせてもらったんだよ。あのシュリの件で、仕方なくだったのだけれども、気を悪くしたかな?」
私は勢いよく首を横に振りました。
姫様がシュリに浚われた件で少々モメたようでして、奥さまと旦那さまの機嫌が最高潮に悪い時期がちょっとあったのです。
きっと色々調べられたのですね。
その時期がちょっとで良かったと、今ではものすごくものすごくほっとしています。
あれほど怖い奥さまと旦那さまは初めて見ましたから。
「ああ、シリン姫はあちらにいるようだね」
陛下の声に思わず陛下の視線を追ってしまいます。
そこには先ほど逃げた…いえ、姫様を探しに行った同僚と姫様の姿。
きょとんっとしている姫様は大変可愛らしいです!
…って、そうじゃありません!
姫様!逃げてください!
「そこにいるのはシリン・フィリアリナ姫かな?」
陛下はそこにいらっしゃるのが姫様だと分かっているはずなのに、そんな言葉を口にします。
もしかして、陛下もクルス殿下同様性格があまりよろしくない方なのでしょうか?
あ、いえ、ティッシ国の国王陛下にそんな事を感じるなんて無礼もいいところなのでしょうが、何と言いますか、位の高い方って一癖二癖ある方ばかりな気がるんです。
奥さま然り、旦那さま然り。
「時間があるようなら、私と一緒に少し話でもしてくれないかな?シリン姫」
姫様は陛下の御顔を御存じでないはずです!
ですが、姫様は一瞬可愛らしくきょとんっとした後に微笑んだのです。
陛下を庭へと案内する様ですが、姫様、大丈夫でしょうか?
私の姫様が陛下に無礼を働くことなどないと信じていますが、やっぱり心配になってしまうのです。
姫様、大丈夫でしょうか?
…あ。
にこりっと私の方を見て安心するようにと意味をこめて笑みを向けて下さる姫様。
わ、私ってば、姫様に気を遣わせてしまいました!
姫様、私、信じてますからっ!
陛下がどんな性悪であられても、姫様ならば切り抜けられるとっ!
よし!私もお茶を出す手伝いをしいに行ってきます。
きっと今頃、厨房は大騒動になっているでしょうね。
高貴なお客様は数多くいらっしゃいますが、国王陛下が突然いらっしゃったのは、私がこの屋敷に勤め始めて初めてのことですからね。
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