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×マリーさんとクルス殿下
時間軸は第一部のシリンさん7~8歳あたり。
マリーさんとクルス殿下
マリーさんとクルス殿下
どうしましょう、どうしましょう!
私、今日、すごいものを見てしまいました!
姫様のお部屋に、お茶が必要かを伺おうとしたのですが……ですがっ!!
信じられない方の姿を目撃してしまったのです!
ど、どうしましょう?!
今この扉の向こうに、まさかのツーショットです。
こ、こんな場合は、メイドの立場では見なかったふりがいいのかしら…?
かちゃり
対応を悩んでいる間に、唐突に目の前の扉が少し開く。
「悪いけれど、静かにしてもらえるかな?」
少し開いた扉から声をかけてきたのは、先ほど姫様に抱きついていた人物で、今お屋敷には絶対にいない筈の人。
だって、だって、その人はこのティッシの第2王継承者のクルス・ティッシ殿下なのです!
「シリン姫は、昨日遅くまで本を読んでいたようでね、今さっき休み始めたばかりなんだよ」
ひやりっとした声。
なんだか、旦那さまが本気で怒った時の声に似ています。
こ、怖いですけれども、私は姫様の専属メイドなんです。
姫様のため、たとえ殿下であっても姫様に変な事をしないように、忠告だけは…で、できるかしら?
「姫様は、眠られているのですか?」
「そう言ったはずだけど、そう聞こえなかった?」
んなっ…?!
なんて、性格悪い答え方なのかしら!
親の顔が見てみたいわ!
……いえ、そう言えば、前国王陛下夫妻の御顔は拝見した事がありました。
えっと、ちょっと待って下さい。
確か、姫様は眠られたということは…っ!
この方は姫様の寝顔をご覧になったということではありませんか!
「姫様には指一本触れないで下さい!」
ぐっと拳を握り締めて私は訴えました。
が、クルス殿下は何故か一瞬驚いた表情をされたのです。
「何故?」
「な、何故って…!姫様は私の大切な姫様です!まだ幼い姫様を異性の方に触れさせるなんてそんな不埒な真似は、私、マリー・ディークレアの名にかけてさせません!」
そうです、相手がたとえこの国の第二王位継承者であっても、私にとっては姫様の方が優先なのです!
クルス殿下は少し考える様子をされてから、じっと私を見ます。
う…、なんて心臓に悪い綺麗な顔立ち何でしょう。
先ほどこの方に抱きつかれていた姫様、どうして平気だったんですか?!
「ディークレアは確か南方の方に小さい領土がある男爵家だったね」
「へ…?」
「フィリアリナ家の遠い親戚筋だっけ?ふぅん、そう、だからシリン姫に仕えているんだ?」
な、な、な、何で私の家の事までご存じなんですか?!
私の家は確かに男爵家で、けれど名前を聞いただけで貴族だと分かるほど有名でもなく、むしろ無名で、知らない人の方が多いはずなのに…!
お、恐るべし、です、クルス殿下。
「シリン姫のこと大事?」
「勿論です!むしろその問いは愚問です!」
はっとなって反射的に私は答えてしまいました。
わ、私ってば、この方に”愚問”なんてものすごく失礼なことを言ってしまったのかしら。
でも、でも、姫様を大切にするのは当然なんです。
「シリン姫は可愛いよね」
にこりっとクルス殿下が聞いてこられます。
私は、どうして突然そんな事を聞いて来たのかと思う事もなく、再びすぐに肯定しました。
大きく頷きながら、同意します。
「姫様は笑顔を浮かべた時がとても可愛らしいのです!お茶を差し上げただけで、ふわっと笑みをうかべて”ありがとうございます”とかおっしゃられるんですよ!」
私はクルス殿下に姫様のすばらしさを力説します。
「この間私の仕事仲間が廊下の花瓶を割ってしまったのですが、実は姫様がそれを法術を使ってこっそり直して下さったんです!そんなお優しい気遣いもされるのです!」
私は法術を使えるほど法力に恵まれていなかったので、姫様があっさり法術を使ったことにあの時は驚いたものです。
姫様に聞けば、花瓶の修復する程度の法術にはそう法力を必要としないとおっしゃっていました。
そんな事が出来てもしてくれないのが名のある貴族の普通だと聞いていた私としては、すごく驚いたのです。
「君は本当にシリン姫が大好きなんだね」
「当り前です!私は一生姫様にお仕えする気満々です!」
一生仕えてもいいと考えられる程に姫様は素晴らしい人なのです。
私の本気の気持が伝わったのか、クルス殿下が小さく、本当にちょこっとだけですが笑みを浮かべられました。
う、綺麗なお方の笑顔って眩しいです…っ!
「君がシリン姫の事、大好きでよかったよ」
クルス殿下は笑みを深くして、本当に笑みを浮かべていると分かる表情をされました。
が、ですね。
その笑みが何となく良くないものであると思ってしまったのです。
ええ、思わずギクリっとなるほどに。
何故そんなことが私に分かるかと言いますと、奥さまや旦那さま、セルドさまがたまに浮かべられる笑みがそんな感じなのです。
「大丈夫、今のところシリン姫に手を出す予定はないから」
用は済んだとばかりに、ぱたんっと目の前の扉が閉まる。
え?!え?!ちょ、ちょっと待って下さい!
今のところってなんですか?!殿下!
今後はその予定があるんですか?!
そう叫んで問い詰めたいところだったのですが、せっかくお休みになっている姫様を起こしかねません。
それはいけません。
姫様にはゆっくり休んでいただきたいと思うのです。
そう言えば私ちょっと思いました。
姫様、姫様の周りの方々ってどうして皆さん怖い笑み浮かべられる方ばかりなんでしょう?
いえ、姫様の事を大切に思っている方々ばかりなのは良い事なのでしょうが…、私、ちょっと自分の心臓が持つかが心配です。
これ以上、どこか黒いものを持つ方が増えないことを祈るばかりです。
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