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×マリーさんと姫様
せっかくなので「マリーさんの観察記録」
※甲斐とシリンが初めて会った頃の時間軸の話です。
※甲斐とシリンが初めて会った頃の時間軸の話です。
マリーさんと姫様
ふわりっと舞う長い金髪はさらさら。
青い瞳は、同じ年齢の子供たちよりも、知的に見えてしまうのは仕えている私の欲目かしら。
私は、フィリアリナ家のシリン・フィリアリナ姫様に仕える専任のメイド。
7歳の姫様は、明日の奥さまの誕生日に一生懸命刺繍をされている。
けど、けど…っ!もう、可愛らしいです、姫様!
「マリー、変じゃないですか?」
姫様は屋敷に仕える人たちには、何故か丁寧な言葉で話しかけてくださるの。
普通に話していただいて構わないのですよ、と言ったことがあるのだけれども、「年長者には敬意をはらうように」とかなんとか、余計な事を教えやがった人がいたようで、今でも言葉遣いはこのまま。
ちょっと、他人行儀っぽくてさびしいです、姫様。
「十分お綺麗に出来ていますよ」
「本当?」
「ええ、とてもお上手です」
じっと私の顔を見てから姫様は手元の刺繍に視線を戻す。
どうも納得いかないようなのだけれども、初めての刺繍でこれだけ形ができれば、私は十分だと思うのに、姫様は満足いかないよう。
奥さまなら、姫様が心をこめて作ったものならば、たとえ意味不明物体になっても内心飛びははねたいほど喜んでくださると思う。
姫様の前では、あまり姫様を溺愛している様子を見せない奥さまだけれども、私は姫様を溺愛していらっしゃる奥さまを知っているからそう言いきれるわ。
「ちゃんとお花に見えますか?」
「はい、とても綺麗な薔薇ですよ」
むぅっと唸りながら刺繍とにらめっこをされる姫様。
もう…!撫でたいくらい可愛らしいです!
「これだけ上手でしたら、旦那さまの誕生日にも同じものを差し上げてはいかがですか?」
「父様の?」
「はい、旦那さまもお喜びになると思いますよ」
姫様は考えこむように手元の刺繍を見つめる。
「けれど、父様はお仕事でハンカチなんて使わないと思うので、邪魔になってしまうと思うんです」
姫様!それはすごく思い違いです!
旦那さまも、奥さま同様、姫様から頂けるものならばどんなものでも嬉しいはずですよ!
「そんなことありませんよ、姫様」
「そう、でしょうか?」
姫様はとてもお優しい。
けれども、そのお優しさに付け込むような輩が将来出てこないかはちょっと心配。
旦那さまも奥さまもセルド様も、姫様をとても大切にしていらっしゃるから大丈夫だと思うのだけれども…。
「そのうち姫様も、どなたかお好きな方への刺繍を贈るようになるのでしょうね」
「え?」
姫様の頬がぽっと赤くなる。
こ、この反応は…っ!
姫様?!もしかして好きな方でもいらっしゃるのですか?!
「えっと、私が好きになる人はこういうの喜ぶような人じゃないと思うし…」
「そんな事ありません!!」
姫様の言葉に私は思わずこぶしを握り締めてしまう。
姫様の贈り物を喜ばないなんて言語道断!
男としてあり得ません!
「姫様の心のこもった贈り物を喜ばない人なんていませんよ。王族の方だって、姫様からの贈り物ならば喜んでくださいますよ」
「マリー、それは大げさです」
苦笑する姫様。
けれど、私は思うの!
姫様のこの優しさと可愛らしさを知れば、例え、どんな美女に言い寄られても全く靡かないクルス・ティッシ殿下であっても、姫様のプレゼントは喜ばれると思うのよ!
だって、姫様は姿が可愛らしいだけでなくて、内面もとても可愛らしいもの!
「けれど、これを贈って母様が喜んでくれれば、私は嬉しいです」
シルクの真っ白のハンカチに咲く、小さな薔薇の花には、姫様の愛情がたくさんこもっています。
「奥さまは絶対に喜んでくれますよ、姫様」
「うん」
にこっと笑みを浮かべる姫様。
刺繍を再開しようとする姫様ですが、その前に聞いておきたい事がありますよ、姫様。
「姫様、また外に内緒で出かけましたね」
ぴたりっと姫様の手が止まる。
好きな方という言葉の反応からして、それらしい方がいるのは間違いないはずです!
けれど、姫様は基本的にお屋敷の外には出られません。
「貴族院の中だから、平気でしたよ」
「姫様!」
「う…」
このお屋敷には警備もちゃんとついていますし、どうやって抜け出しているのか分からないのですが、姫様はよくお屋敷の外に出ているよう。
流石姫様という所なのでしょうが、貴族にだって変態はいる。
可愛らしい姫様がどこかにいる変態に目をつけられては大変。
「屋敷の外に行くのは構いません。けれど、警護をつけるように奥さまも言われていたでしょう」
「で、でも…、ちょっと散歩するくらいだから、警護担当に人にも悪いですし」
「それが仕事なのですから、思う存分振り回して構わないですよ、姫様」
「うん…」
納得いかない様子の姫様。
む、この様子では、また1人で抜けだすつもりですね。
今度抜けだしたら、ひらひらのドレスを着てもらいますからね!
「さあ、とにかく今は奥さまへの贈り物を仕上げましょう?」
「うん、頑張ります」
ちょっと姫様がほっとしたのが分かりました。
これは、ちょっと怪しいです。
もしや姫様、まだ7歳なのに、内緒で逢引ですか?!
く…、私の可愛い姫様に惚れられるなんてどこの馬の骨か分かりませんが、まだ姫様は絶対に渡しませんからね!
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